死んだ人のことを想い出して悲しんだり、死にそうな人を思いやって心を痛めたりする状況をうたった詩歌を挽歌といいますが、実に切ないものです。
日本では、昭和の初め頃に宮沢賢治が妹のトシの死を悼んでうたった『永訣の朝』や、彫刻家の高村光太郎が死の床にあった妻の智恵子をうたった『レモン哀歌』などが有名ですね。
宮沢賢治『永訣の朝』から
けふのうちにとほくへいってしまふわたくしのいもうとよ
みぞれがふっておもてはへんにあかるいのだ
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
うすあかくいっさう陰惨な雲からみぞれはびちょびちょふってくる
(あめゆじゅとてちてけんじゃ)
・・・・・・ 以下略 ・・・・・・
高村光太郎『レモン哀歌』から
そんなにもあなたはレモンを待つてゐた
かなしく白くあかるい死の床で
私の手からとつた一つのレモンを
あなたのきれいな歯ががりりと噛んだ
・・・・・・ 以下略 ・・・・・・
どちらも平易な語り口ながら、心にぐっと迫るものがあります。日本を代表する挽歌だと筆者は思います。
ところが、武将をうたった挽歌というものを聞いたことがありません。源義経の生涯を描いた『義経記』や平家の盛衰を語った『平家物語』といった物語はよく知られていますが、挽歌はどうなのでしょうか。恐らくあるとは思うのですが、一般に有名なものはないように思います。
勝手な偏見ですが、やはり武将は勇ましいものですから、「暗い」「悲しい」といった挽歌のイメージには合わない気がします。「悲劇のヒーロー」といわれた真田幸村でさえ、弱々しさからはほど遠く、英雄、勇者のイメージですから。むしろ挽歌をうたわれていないことは、武将・幸村の面目躍如たる点ともいえるかもしれません。
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