長野の皆様には、11月22日の地震のお見舞いを申し上げます。善光寺様も痛々しく、およそ日本にこの被害から免れる土地は一つもないことを改めて思い知らされます。
<秩父札所 1>に戻って、三十三番札所、菊水寺に掛かるもう一つの額絵です。
右端はこういう絵です。
女性が、生まれたばかりの赤子の口鼻を押さえて殺そうとしている、残酷な絵です。左上にはその本性を投影する鬼女の姿が浮かびます。私が学生のころの日本史の教科書にもこのような「子返し」の絵は紹介されていました。おそらく飢饉や災害などからの困窮ゆえ、あるいは不本意に身ごもった母親が思い余っての凶行を戒めるための絵と思っていました。しかし、実態は少し違ったようです。屏風を背にした絵の女性もみすぼらしくはありません。村の豪農が、一家の合意のもと嬰児殺しを行っていたようなことが少なからずあったようです。すなわち、貧しさゆえではない、現在の生活水準を維持するための「生産調整」でした(参考)。
「子返し」の絵は多くあります。押さえつけている女性は、必ずしも母親ではなく、役割を理解した産婆かもしれませんが、地獄で子供たちの逆襲を受けています。安易に横行する子返しに、命を慈しむ立場から禁令を出し、繰り返し非難するキャンペーンの絵だったようです。
こちらは、埼玉県狭山市・柏原白鬚神社の額絵一対です。一つは子返しの図。やはり鬼女に投影されています。絵には、
「足らぬとて 間引くこころの 愚かさよ 世に子宝と いふを知らずや」
これと対になるのは、日月と男女を配した、「陰陽和合図」です。
上に三つの宝珠、その下に日月、下に右から男、真ん中に子供、左に女、そして一番下に白く「心」の字が。シンメトリーの中に和合を説きます。こちらには、
「月と日の みそかの契りなかりせば 人の種には 何かなるべき」
とあります。富士講(富士山信仰)の生命観に基づく絵と言われています。
<つづく>
【最近読んだ本】
「ヤノマミ」 NHK出版 国分 拓著
ヤノマミ族はアマゾン奥地の先住狩猟民族で、独自の文化と風習を守り続けています。150日に及んだ同居生活をNHKでドキュメンタリー放送したものをノンフィクションとして出版したものです。ヤノマミ族の女子は平均14歳で妊娠・出産するそうです。出産は森の中で行われますが、産まれた児は「精霊のまま返す」か、育てるかの選択を迫られます。約半数もが育てられず、返されるそうです。その時はへその緒がついた状態でバナナの葉にくるみ、白アリのアリ塚に放り込み、白アリに食べつくされたころアリ塚を焼いて精霊になったことを神に報告して終わります。アマゾンでも「七つまでは神のうち」なのでしょうか。
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